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「夜になっても目が冴える」「休日は昼まで寝てしまう」…そんな時は、もしかしたら体内時計が乱れているのかもしれません。体内時計とねむりは、切っても切れない関係です。いいねむりを手に入れる第一歩として、体内時計のしくみとリセット法をお話します。
私たちの体には、もともと時間のリズムが備わっています。たとえば、心臓の鼓動のように短い周期のものもあれば、生理のように月単位で繰り返されるリズムなどがあります。
その中でも、毎日の生活リズムに深く関わっているのが「体内時計」です。体内時計は、睡眠や体温、ホルモンの分泌などを約24時間のリズムで調整しています1)。
朝になると自然に目が覚めて、夜になるとだんだん眠くなってくる。
当たり前に思えるこのサイクルは、体内時計が整えているのです。
(約24時間のリズムは医学的に「サーカディアンリズム(概日リズム)」とも呼ばれていますが、本記事では「体内時計」としてご紹介します。)
体内時計は、地球の「昼と夜」という自然のリズムに合わせて、長い年月をかけて進化してきました。
実は、体内時計は24時間よりも少し長い傾向があります。そのままにしておくと少しずつ生活リズムがずれてしまいそうですが、毎日の朝の光がこのリズムを「24時間」に整え直しています。
朝になってカーテンを開けた瞬間に目から入った光の情報は、脳の奥にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という場所に届けられます。
視交叉上核は体内時計の中心となる部分で、私たちの体の中の時間を「外の世界の明るさ」に合わせてくれる場所です1,2)。
「朝と夜の光の違い」を感じることは、体のリズムを整えるためにとても大切です。
ある実験で「人が昼も夜もわからないような環境で過ごした時に体のリズムはどうなるのか」が調べられました。窓も時計もない空間で、時間を知る手がかりが一切ないようにしたのです。
すると、体温やホルモン、眠りのリズムに少しずつズレが生じ、体内時計のリズムが自然と24時間より長い周期のリズムに近づいていきました3)。体内時計は、放っておくと少しずつ遅れてしまいます。
さらに、同じような環境の中でも「決まった時間に光を浴びる」ことで体内時計がどう変わるかも調べられました。その結果、体内時計は朝に光を浴びると少し早まって前に進み、夜に光を浴びると後ろにずれて遅くなることもわかったのです1)。
このように、「朝、光を浴びること」は体内時計を整える上でとても重要です1)。さらに、体内時計を整える大切な要素が光の他にもあるということがわかっています。
体内時計の要素として欠かせないのが「メラトニン」です。
メラトニンはねむりにとって大切なホルモンで、脳にある「松果体(しょうかたい)」という場所から分泌されています。
メラトニンは環境の光と体内時計によって分泌量が調節され、4)夜の暗い環境で私たちの体を「ねむりモード」に移行する役割を持っています。一方で、朝になって明るい光を浴びるとメラトニンの分泌は止まり、目が冴えた状態になるのです。
「いつ食べるか」「いつ体を動かすか」も、体内時計の調整に重要なポイントです。
たとえば、朝ごはんをしっかり食べると、胃腸の働きや代謝が活性化されて「今日も1日が始まった!」と体が本格的に動き出します。
また、日中に軽く体を動かすことで体温やホルモン分泌によい刺激が加わり、夜の自然なねむりにつながりやすくなります6)。
仕事に、家事に、育児に…現代を生きる女性は毎日とても忙しく過ごしています。ついつい自分のことは後回しになって、気がついたら夜遅くまで起きていた…ということはありませんか?
夜遅くにスマートフォンやパソコンなどを見てブルーライトを浴びていると、ねむりのホルモン・メラトニンの分泌が妨げられる5)ことに加え、部屋の明かりを浴びて脳が覚醒モードになって しまうのです。
このように、光で感じる「昼と夜」と体内時計による「昼と夜」がずれてしまうと、ねむりのリズムの乱れにつながります。
女性の体は月経周期にあわせて「エストロゲン」や「プロゲステロン」といった女性ホルモンの分泌量が日々変化しています。
実際に、生理前の時期(黄体期)にプロゲステロンが増えると寝つきが悪くなります7)。このようなホルモンバランスの変化も体内時計の乱れの原因です8)。
というわけで、「また夜更かししちゃった…」「不規則な生活をしているからダメなんだ」と自分を責める必要はありません。
「今はホルモンの影響を受けやすい時期なんだな」「ちょっとリズムが乱れているな」と受け止めましょう。
できることから少しずつ整えていくと、心身にやさしいセルフケアができるでしょう。
きちんと眠れていないと、以下のように悪影響を及ぼし、生活習慣病やメンタル不調のリスクにつながると言われています9)。
だからこそ「ねむり」を整えるように心がけたいところですが、完璧な生活リズムで毎日過ごすのは難しいものです。
そこで、簡単にできる体内時計のリセット習慣をいくつかご紹介します。「これならできるかも」と思ったものを、ぜひ取り入れてみてください。
朝起きたらカーテンを開けて、自然の光をしっかり浴びましょう。
たったこれだけでも脳が「朝だ」と認識し、体内時計がリセットされやすくなります。
夜になったら、スマートフォンやパソコンの画面を見る時間を短くしましょう。
ブルーライトは脳を昼間だと勘違いさせて、ねむりのホルモン・メラトニンの分泌を邪魔してしまいます。
余裕があれば、間接照明やアロマを使って「夜らしい空間」をつくってみるのもおすすめです。
昼間は明るい場所で過ごすことで、体内時計が整います。外に出るのが難しい日も、カーテンを開けたり照明を明るくしたりするだけで効果的です。
日中にしっかり光を浴びることが、夜の自然なねむりにもつながっていきます。
休日になると「朝はゆっくり寝たい」と思いがちですが、起きる時間が平日と大きくずれると、体内時計が乱れやすくなります。休みの日もできるだけ平日と同じ時間に起きられるように、前日の夜更かしは控えましょう9)。
体内時計を整える方法はたくさんありますが、大切なのは「自分にできそうなもの」から少しずつ始めることです。
完璧を目指す必要はありません。無理なくできる・続けられるものを取り入れてみてください。
ねむりは「人生の土台」をつくるものです。ねむりを整えることは、毎日の心と体を整えて自分を大切にすることにつながります。
夜眠れないのは、何かのサインかもしれません。
ストレスがたまっていたり、生活のリズムが乱れていたり…そんな時は、自分を責めずにできることから始めてみてください。
小さな積み重ねが、変化につながります。ねむりも、心も、体も、毎日少しずつ変わっていくことでしょう。
参考文献
1)橋本聡子ら.“睡眠と生体リズム”.日薬理誌.129,400-403(2007)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/129/6/129_6_400/_pdf
2)厚生労働省.“体内時計(たいないどけい)”.健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~.厚生労働省WEBページ.(参照2025-04-21)https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-039
3)R A Wever.“Characteristics of circadian rhythms in human functions”.J Neural Transm Suppl. 1986:21:323-73.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3462338/
4)厚生労働省.“メラトニン(めらとにん)”.健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~.厚生労働省WEBページ.(参照2025-04-21)https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-062
5)Clayton Vasey et al.“Circadian Rhythm Dysregulation and Restoration: The Role of Melatonin”.Nutrients. 2021 Sep 30;13(10):3480. DOI:10.3390/nu13103480
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8538349/
6)柴田重信.“時間運動学と時間栄養学”.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/1/31_30/_pdf/-char/ja
7)香坂雅子.“女性の睡眠と健康”.保健医療科学 2015; Vol.64 33-40
https://www.niph.go.jp/journal/data/64-1/201564010006.pdf
8)Fiona C Baker et al.“Circadian rhythms, sleep, and the menstrual cycle”.Sleep Med. 2007 Sep;8(6):613-22.DOI: 10.1016/j.sleep.2006.09.011
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1389-9457(06)00621-6
9)厚生労働省.2024年11月.“良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと”.厚生労働省WEBページ.(参照2025-04-21)
https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/leaf-sleep.pdf
私たちの体には、もともと時間のリズムが備わっています。たとえば、心臓の鼓動のように短い周期のものもあれば、生理のように月単位で繰り返されるリズムなどがあります。
その中でも、毎日の生活リズムに深く関わっているのが「体内時計」です。体内時計は、睡眠や体温、ホルモンの分泌などを約24時間のリズムで調整しています1)。
朝になると自然に目が覚めて、夜になるとだんだん眠くなってくる。
当たり前に思えるこのサイクルは、体内時計が整えているのです。
(約24時間のリズムは医学的に「サーカディアンリズム(概日リズム)」とも呼ばれていますが、本記事では「体内時計」としてご紹介します。)
体内時計は、地球の「昼と夜」という自然のリズムに合わせて、長い年月をかけて進化してきました。
実は、体内時計は24時間よりも少し長い傾向があります。そのままにしておくと少しずつ生活リズムがずれてしまいそうですが、毎日の朝の光がこのリズムを「24時間」に整え直しています。
朝になってカーテンを開けた瞬間に目から入った光の情報は、脳の奥にある「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という場所に届けられます。
視交叉上核は体内時計の中心となる部分で、私たちの体の中の時間を「外の世界の明るさ」に合わせてくれる場所です1,2)。
「朝と夜の光の違い」を感じることは、体のリズムを整えるためにとても大切です。
ある実験で「人が昼も夜もわからないような環境で過ごした時に体のリズムはどうなるのか」が調べられました。窓も時計もない空間で、時間を知る手がかりが一切ないようにしたのです。
すると、体温やホルモン、眠りのリズムに少しずつズレが生じ、体内時計のリズムが自然と24時間より長い周期のリズムに近づいていきました3)。体内時計は、放っておくと少しずつ遅れてしまいます。
さらに、同じような環境の中でも「決まった時間に光を浴びる」ことで体内時計がどう変わるかも調べられました。その結果、体内時計は朝に光を浴びると少し早まって前に進み、夜に光を浴びると後ろにずれて遅くなることもわかったのです1)。
このように、「朝、光を浴びること」は体内時計を整える上でとても重要です1)。さらに、体内時計を整える大切な要素が光の他にもあるということがわかっています。
体内時計の要素として欠かせないのが「メラトニン」です。
メラトニンはねむりにとって大切なホルモンで、脳にある「松果体(しょうかたい)」という場所から分泌されています。
メラトニンは環境の光と体内時計によって分泌量が調節され、4)夜の暗い環境で私たちの体を「ねむりモード」に移行する役割を持っています。一方で、朝になって明るい光を浴びるとメラトニンの分泌は止まり、目が冴えた状態になるのです。
「いつ食べるか」「いつ体を動かすか」も、体内時計の調整に重要なポイントです。
たとえば、朝ごはんをしっかり食べると、胃腸の働きや代謝が活性化されて「今日も1日が始まった!」と体が本格的に動き出します。
また、日中に軽く体を動かすことで体温やホルモン分泌によい刺激が加わり、夜の自然なねむりにつながりやすくなります6)。
仕事に、家事に、育児に…現代を生きる女性は毎日とても忙しく過ごしています。ついつい自分のことは後回しになって、気がついたら夜遅くまで起きていた…ということはありませんか?
夜遅くにスマートフォンやパソコンなどを見てブルーライトを浴びていると、ねむりのホルモン・メラトニンの分泌が妨げられる5)ことに加え、部屋の明かりを浴びて脳が覚醒モードになって しまうのです。
このように、光で感じる「昼と夜」と体内時計による「昼と夜」がずれてしまうと、ねむりのリズムの乱れにつながります。
女性の体は月経周期にあわせて「エストロゲン」や「プロゲステロン」といった女性ホルモンの分泌量が日々変化しています。
実際に、生理前の時期(黄体期)にプロゲステロンが増えると寝つきが悪くなります7)。このようなホルモンバランスの変化も体内時計の乱れの原因です8)。
というわけで、「また夜更かししちゃった…」「不規則な生活をしているからダメなんだ」と自分を責める必要はありません。
「今はホルモンの影響を受けやすい時期なんだな」「ちょっとリズムが乱れているな」と受け止めましょう。
できることから少しずつ整えていくと、心身にやさしいセルフケアができるでしょう。
きちんと眠れていないと、以下のように悪影響を及ぼし、生活習慣病やメンタル不調のリスクにつながると言われています9)。
だからこそ「ねむり」を整えるように心がけたいところですが、完璧な生活リズムで毎日過ごすのは難しいものです。
そこで、簡単にできる体内時計のリセット習慣をいくつかご紹介します。「これならできるかも」と思ったものを、ぜひ取り入れてみてください。
朝起きたらカーテンを開けて、自然の光をしっかり浴びましょう。
たったこれだけでも脳が「朝だ」と認識し、体内時計がリセットされやすくなります。
夜になったら、スマートフォンやパソコンの画面を見る時間を短くしましょう。
ブルーライトは脳を昼間だと勘違いさせて、ねむりのホルモン・メラトニンの分泌を邪魔してしまいます。
余裕があれば、間接照明やアロマを使って「夜らしい空間」をつくってみるのもおすすめです。
昼間は明るい場所で過ごすことで、体内時計が整います。外に出るのが難しい日も、カーテンを開けたり照明を明るくしたりするだけで効果的です。
日中にしっかり光を浴びることが、夜の自然なねむりにもつながっていきます。
休日になると「朝はゆっくり寝たい」と思いがちですが、起きる時間が平日と大きくずれると、体内時計が乱れやすくなります。休みの日もできるだけ平日と同じ時間に起きられるように、前日の夜更かしは控えましょう9)。
体内時計を整える方法はたくさんありますが、大切なのは「自分にできそうなもの」から少しずつ始めることです。
完璧を目指す必要はありません。無理なくできる・続けられるものを取り入れてみてください。
ねむりは「人生の土台」をつくるものです。ねむりを整えることは、毎日の心と体を整えて自分を大切にすることにつながります。
夜眠れないのは、何かのサインかもしれません。
ストレスがたまっていたり、生活のリズムが乱れていたり…そんな時は、自分を責めずにできることから始めてみてください。
小さな積み重ねが、変化につながります。ねむりも、心も、体も、毎日少しずつ変わっていくことでしょう。
参考文献
1)橋本聡子ら.“睡眠と生体リズム”.日薬理誌.129,400-403(2007)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/129/6/129_6_400/_pdf
2)厚生労働省.“体内時計(たいないどけい)”.健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~.厚生労働省WEBページ.(参照2025-04-21)https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-039
3)R A Wever.“Characteristics of circadian rhythms in human functions”.J Neural Transm Suppl. 1986:21:323-73.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3462338/
4)厚生労働省.“メラトニン(めらとにん)”.健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~.厚生労働省WEBページ.(参照2025-04-21)https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-062
5)Clayton Vasey et al.“Circadian Rhythm Dysregulation and Restoration: The Role of Melatonin”.Nutrients. 2021 Sep 30;13(10):3480. DOI:10.3390/nu13103480
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8538349/
6)柴田重信.“時間運動学と時間栄養学”.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/31/1/31_30/_pdf/-char/ja
7)香坂雅子.“女性の睡眠と健康”.保健医療科学 2015; Vol.64 33-40
https://www.niph.go.jp/journal/data/64-1/201564010006.pdf
8)Fiona C Baker et al.“Circadian rhythms, sleep, and the menstrual cycle”.Sleep Med. 2007 Sep;8(6):613-22.DOI: 10.1016/j.sleep.2006.09.011
https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S1389-9457(06)00621-6
9)厚生労働省.2024年11月.“良い目覚めは良い眠りから 知っているようで知らない睡眠のこと”.厚生労働省WEBページ.(参照2025-04-21)
https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/themes/targis_mhlw/pdf/leaf-sleep.pdf
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