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「最近なんだか眠れない」「寝ても疲れがとれない」と思ったことはありませんか? そのトラブル、もしかしたら女性ホルモンが関係しているかもしれません。 女性のねむりは、ホルモンバランスによって変化を起こしやすい時期があります。 この記事では、一生を通じた女性ホルモンとねむりの関係をご紹介します。ぜひ、これからのライフスタイル設計に役立ててみてください。
最初に、女性ホルモンの働きとねむりの関係を見ていきましょう。
女性ホルモンには、主に「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があります。
エストロゲンは女性の体をつくって妊娠に備えるホルモン、プロゲステロンは妊娠を維持するために働くホルモンです。
脳にある視床下部が脳下垂体に指令を出し、卵巣から女性ホルモンが分泌されます。エストロゲンとプロゲステロンはお互いにバランスを取りながら分泌され、心身の健康を支える役目を持っています。
女性ホルモンの分泌量は、月経周期の中で変化するだけでなく、妊娠・出産・更年期など生涯を通じて起こります。どちらか一方が多すぎたり少なすぎたりすると、バランスが崩れて不調を感じやすくなってしまうのです。
月経周期は、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量のバランスによって「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」の4つに分かれています。ねむりに影響するのは主に黄体期と月経期です。
黄体期にはプロゲステロン分泌量が増え、寝つきが悪くなったり夜中に目覚めたりすることがあります。夜のねむりの長さと質がどちらも低下するため、日中に眠くなることもあるでしょう。
また、月経期は妊娠に備えて体を休ませる機能が働くため、日中に眠気が起こりやすくなります。
「何だか眠れない」または「どんなに寝ても眠い」と感じたときは、月経周期を意識してみてください。もしかすると、関係しているかもしれません。
さまざまな働きをもつ女性ホルモンですが、どうしてねむりに影響を与えるのでしょうか。
先ほどご紹介したように、月経前の黄体期にプロゲステロンがたくさん分泌されると、寝つきが悪くなったり夜中に目覚めたりすることがあります。これは、プロゲステロンがねむりに深くかかわる「深部体温」に作用するためです。
深部体温とは、体の内部の体温です。人間の体はねむりにつく時に深部体温を下げ、脳と心身を休めています。
また、月経前の黄体期は、体温が高めに保たれるため「高温期」とも呼ばれます。高温期には深部体温も下がりにくくなるため、ねむりの質や量に悪影響を及ぼすのです。
女性ホルモンは、月経周期という小さなサイクルだけでなく、人生という大きなサイクルでも変化しています。いつ変わるのか事前に知っておき、予防や対策ができるようにしましょう。
現代は平均寿命が延び、「人生100年」と言われる時代になりました。働き方、パートナーシップ、出産、育児…選択肢の増加によって、女性のライフスタイルも多様になっています。
しかし、女性ホルモン分泌のサイクルは昔と変わらないままです。仕事や育児などを行うと同時に、女性ホルモンバランスの変化による不調に悩まされると予想されます。ねむりに関わることもそのうちの1つです。
だからこそ、ライフステージごとのホルモン分泌を見越した「ライフスタイル」の設計が重要です。
女性は、10歳前後で思春期を迎えると、エストロゲンの分泌が始まって初潮を迎えます。若いうちは分泌量が安定しませんが、性成熟期を迎える20〜30代前半になると安定します。妊娠・出産を経験する方が多いのもこの年代です。
30代後半からはエストロゲンの分泌量が低下し始め、更年期に向かいます。更年期とは、閉経を挟む前後10年間のことです。女性ホルモンは分泌され続けますが、卵巣機能の低下によってエストロゲンの分泌量がゆらぎながら減っていきます。
閉経後はエストロゲンの分泌がほとんどなくなり、老年期に入ります。女性ホルモンのゆらぎがなくなって体調や気分も一定になる一方、加齢による体の衰えや病気のリスクが高くなる時期です。
更年期は平均して45〜55歳頃と言われており、女性ホルモンが大幅に揺らぎながら低下します。このホルモン分泌の変化に加えて、もとの体質や性格、環境、ストレスなども関係して更年期の症状が起こるのです。症状が辛く、生活に支障をきたすような場合は「更年期障害」と呼ばれます。
女性ホルモンの分泌量の低下は女性の更年期障害の一因となりますが、男性はどうでしょうか。男性ホルモンも同じで、更年期以降は分泌量が低下します。男性にも更年期障害は起こるのです。
しかし、男性ホルモンはゆらぐことなく徐々に低下する、という点で異なります。男性ホルモン低下のスピードや時期は個人差が大きく、40歳以降にはどの年代でも生じる可能性があります。また、女性ホルモンの分泌は閉経から5年ほどでほぼ止まり症状が落ち着きますが、男性ホルモンは分泌され続けるため、更年期障害の期間に終わりがありません1)
ホルモン分泌の変化の仕方は異なりますが、女性も男性も主な更年期の症状は同じで、心身に影響を及ぼす可能性があります。
妊娠・出産・子育て期と更年期は、女性の一生の中でも特にねむりの乱れが起きやすくなるタイミングです。
妊娠初期はプロゲステロンの分泌量が増えて体温が高くなり、日夜の体温の差が少なくなるため眠気が強くなります。つわりによる吐き気や腰の痛みなどで眠りにくい状態です。
妊娠後期になると、ホルモンバランスや環境の変化、大きくなったお腹の圧迫や頻尿でねむりが浅くなりがちです。
また、産後はホルモンの急激なゆらぎに加え、赤ちゃんの授乳や夜泣きによってねむりが細切れで短くなり、慢性的な睡眠不足になる時期です。産後うつのような精神的な不調に結びつくこともあります。
毎日同じ時間に起きる、布団の中でスマートフォンを見ない、など、できる範囲で生活習慣の見直しを心がけ、必要に応じて産科や心療内科で相談しましょう2)。
更年期には、不眠やイライラ、気分の落ち込み、のぼせ、頭痛などのさまざまな症状が現れます。症状は200種類以上とも言われており、中にはねむりを妨げる要因になるものもあります。
代表的な症状の「ホットフラッシュ」がねむりを妨げる、という報告もありますが、詳しい原因は解明されていません。
更年期の症状は、女性ホルモンの減少に加え、もともとの性格や体質、家庭や職場の環境によるストレスなどが複雑に絡み合って起こります。
不眠を含めた更年期の症状を予防し、軽くするためには生活習慣の改善やストレス解消が効果的だと考えられています。「仕方ないことだから」とあきらめず、毎日の中でセルフケアを行うようにしましょう。
適度な運動習慣、バランスの良い食事、ぬるめのお風呂に入るなどのリラクゼーション、禁煙などを取り入れてみてください3)。
もし不調が強い場合は、婦人科や内科で相談することをおすすめします。必要に応じて更年期障害の治療が受けられますし、他の病気の可能性もあるため放置は禁物です。
女性ホルモンの分泌は、月経周期の中だけでなくライフステージによっても変化し、心身に影響を与えるものです。
特に更年期や妊娠・出産・育児の時期にはホルモンバランスが大きくゆらぎ、ねむりにも大きく関わる可能性があります。
一生を通じて快適なねむりを手に入れるためにも、女性ホルモンと上手に付き合っていきましょう。
※「わたしをみつめるねむりDIARY」P6~16より抜粋
その他の参考文献
1)日本内分泌学会.男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)とは.日本内分泌学会. 2024年12月10日
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71
2)日本精神神経学会・日本産科婦人科学会
妊娠中・出産後に「眠れなく」なった方のためのQ&A. こころの不調や病気と妊娠・出産のガイド.2024
https://www.jspn.or.jp/guide/faq/05.php
3)日本女性医学学会.動画で学ぼう 更年期・セルフケア編.日本女性医学学会.2023
https://www.youtube.com/watch?v=7CO5aRepKgc
最初に、女性ホルモンの働きとねむりの関係を見ていきましょう。
女性ホルモンには、主に「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類があります。
エストロゲンは女性の体をつくって妊娠に備えるホルモン、プロゲステロンは妊娠を維持するために働くホルモンです。
脳にある視床下部が脳下垂体に指令を出し、卵巣から女性ホルモンが分泌されます。エストロゲンとプロゲステロンはお互いにバランスを取りながら分泌され、心身の健康を支える役目を持っています。
女性ホルモンの分泌量は、月経周期の中で変化するだけでなく、妊娠・出産・更年期など生涯を通じて起こります。どちらか一方が多すぎたり少なすぎたりすると、バランスが崩れて不調を感じやすくなってしまうのです。
月経周期は、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量のバランスによって「月経期」「卵胞期」「排卵期」「黄体期」の4つに分かれています。ねむりに影響するのは主に黄体期と月経期です。
黄体期にはプロゲステロン分泌量が増え、寝つきが悪くなったり夜中に目覚めたりすることがあります。夜のねむりの長さと質がどちらも低下するため、日中に眠くなることもあるでしょう。
また、月経期は妊娠に備えて体を休ませる機能が働くため、日中に眠気が起こりやすくなります。
「何だか眠れない」または「どんなに寝ても眠い」と感じたときは、月経周期を意識してみてください。もしかすると、関係しているかもしれません。
さまざまな働きをもつ女性ホルモンですが、どうしてねむりに影響を与えるのでしょうか。
先ほどご紹介したように、月経前の黄体期にプロゲステロンがたくさん分泌されると、寝つきが悪くなったり夜中に目覚めたりすることがあります。これは、プロゲステロンがねむりに深くかかわる「深部体温」に作用するためです。
深部体温とは、体の内部の体温です。人間の体はねむりにつく時に深部体温を下げ、脳と心身を休めています。
また、月経前の黄体期は、体温が高めに保たれるため「高温期」とも呼ばれます。高温期には深部体温も下がりにくくなるため、ねむりの質や量に悪影響を及ぼすのです。
女性ホルモンは、月経周期という小さなサイクルだけでなく、人生という大きなサイクルでも変化しています。いつ変わるのか事前に知っておき、予防や対策ができるようにしましょう。
現代は平均寿命が延び、「人生100年」と言われる時代になりました。働き方、パートナーシップ、出産、育児…選択肢の増加によって、女性のライフスタイルも多様になっています。
しかし、女性ホルモン分泌のサイクルは昔と変わらないままです。仕事や育児などを行うと同時に、女性ホルモンバランスの変化による不調に悩まされると予想されます。ねむりに関わることもそのうちの1つです。
だからこそ、ライフステージごとのホルモン分泌を見越した「ライフスタイル」の設計が重要です。
女性は、10歳前後で思春期を迎えると、エストロゲンの分泌が始まって初潮を迎えます。若いうちは分泌量が安定しませんが、性成熟期を迎える20〜30代前半になると安定します。妊娠・出産を経験する方が多いのもこの年代です。
30代後半からはエストロゲンの分泌量が低下し始め、更年期に向かいます。更年期とは、閉経を挟む前後10年間のことです。女性ホルモンは分泌され続けますが、卵巣機能の低下によってエストロゲンの分泌量がゆらぎながら減っていきます。
閉経後はエストロゲンの分泌がほとんどなくなり、老年期に入ります。女性ホルモンのゆらぎがなくなって体調や気分も一定になる一方、加齢による体の衰えや病気のリスクが高くなる時期です。
更年期は平均して45〜55歳頃と言われており、女性ホルモンが大幅に揺らぎながら低下します。このホルモン分泌の変化に加えて、もとの体質や性格、環境、ストレスなども関係して更年期の症状が起こるのです。症状が辛く、生活に支障をきたすような場合は「更年期障害」と呼ばれます。
女性ホルモンの分泌量の低下は女性の更年期障害の一因となりますが、男性はどうでしょうか。男性ホルモンも同じで、更年期以降は分泌量が低下します。男性にも更年期障害は起こるのです。
しかし、男性ホルモンはゆらぐことなく徐々に低下する、という点で異なります。男性ホルモン低下のスピードや時期は個人差が大きく、40歳以降にはどの年代でも生じる可能性があります。また、女性ホルモンの分泌は閉経から5年ほどでほぼ止まり症状が落ち着きますが、男性ホルモンは分泌され続けるため、更年期障害の期間に終わりがありません1)
ホルモン分泌の変化の仕方は異なりますが、女性も男性も主な更年期の症状は同じで、心身に影響を及ぼす可能性があります。
妊娠・出産・子育て期と更年期は、女性の一生の中でも特にねむりの乱れが起きやすくなるタイミングです。
妊娠初期はプロゲステロンの分泌量が増えて体温が高くなり、日夜の体温の差が少なくなるため眠気が強くなります。つわりによる吐き気や腰の痛みなどで眠りにくい状態です。
妊娠後期になると、ホルモンバランスや環境の変化、大きくなったお腹の圧迫や頻尿でねむりが浅くなりがちです。
また、産後はホルモンの急激なゆらぎに加え、赤ちゃんの授乳や夜泣きによってねむりが細切れで短くなり、慢性的な睡眠不足になる時期です。産後うつのような精神的な不調に結びつくこともあります。
毎日同じ時間に起きる、布団の中でスマートフォンを見ない、など、できる範囲で生活習慣の見直しを心がけ、必要に応じて産科や心療内科で相談しましょう2)。
更年期には、不眠やイライラ、気分の落ち込み、のぼせ、頭痛などのさまざまな症状が現れます。症状は200種類以上とも言われており、中にはねむりを妨げる要因になるものもあります。
代表的な症状の「ホットフラッシュ」がねむりを妨げる、という報告もありますが、詳しい原因は解明されていません。
更年期の症状は、女性ホルモンの減少に加え、もともとの性格や体質、家庭や職場の環境によるストレスなどが複雑に絡み合って起こります。
不眠を含めた更年期の症状を予防し、軽くするためには生活習慣の改善やストレス解消が効果的だと考えられています。「仕方ないことだから」とあきらめず、毎日の中でセルフケアを行うようにしましょう。
適度な運動習慣、バランスの良い食事、ぬるめのお風呂に入るなどのリラクゼーション、禁煙などを取り入れてみてください3)。
もし不調が強い場合は、婦人科や内科で相談することをおすすめします。必要に応じて更年期障害の治療が受けられますし、他の病気の可能性もあるため放置は禁物です。
女性ホルモンの分泌は、月経周期の中だけでなくライフステージによっても変化し、心身に影響を与えるものです。
特に更年期や妊娠・出産・育児の時期にはホルモンバランスが大きくゆらぎ、ねむりにも大きく関わる可能性があります。
一生を通じて快適なねむりを手に入れるためにも、女性ホルモンと上手に付き合っていきましょう。
※「わたしをみつめるねむりDIARY」P6~16より抜粋
その他の参考文献
1)日本内分泌学会.男性更年期障害(加齢性腺機能低下症、LOH症候群)とは.日本内分泌学会. 2024年12月10日
https://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=71
2)日本精神神経学会・日本産科婦人科学会
妊娠中・出産後に「眠れなく」なった方のためのQ&A. こころの不調や病気と妊娠・出産のガイド.2024
https://www.jspn.or.jp/guide/faq/05.php
3)日本女性医学学会.動画で学ぼう 更年期・セルフケア編.日本女性医学学会.2023
https://www.youtube.com/watch?v=7CO5aRepKgc
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