JOURNAL

2025
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12
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05
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自分への「探究心」が人生を豊かにする?情報過多の時代に考える心と体に向き合う方法【助産師・田口史子さんとの鼎談 後編】

日々の体調の変化に気づき、将来の自分としなやかに向き合うためには「自分の体を知ろうとする姿勢」が欠かせません――そう語るのは助産師の田口史子さんです。 とはいえ、SNSが普及し情報があふれる現代社会。正しい知識を取り入れつつ、自分の体と向き合い続けることは簡単ではありません。 「なんで自分だけこんなに疲れるんだろう?」「どうして私ばかりトラブルが起きるの?」そんなモヤモヤの沼に陥らないために、私たちは何から取り組めばいいのでしょうか。 後編では、日常で実践できるセルフチェックの方法や心の整え方を、田口さんと一緒に考えていきます。

鼎談の前編はこちらから
https://www.pb-femtech.jp/journal/detail/journal-008

【鼎談参加者】

  • 田口 史子(ゲスト): 助産師。株式会社Mama&Baby conditioning代表
    産婦人科医院での助産師経験を経て、2016年に乳房ケア専門の助産院を開業。10年以上に渡り産前産後の乳房ケアに関わる。現在は助産院での活動の傍ら、株式会社Mama&Baby conditioningの代表として女性の健康を支える幅広いプロジェクトに携わる。
  • 大槻、岩井(聞き手): わたしとねむり研究所

まずは不調を受け止める。月経が教えてくれる体のサイン

株式会社Mama&Baby conditioning代表/助産師 田口 史子さん

大槻: 前編では「自分の体を知ることの大切さ」が話題になりましたが、実際に自分の体調を振り返る機会って、意外と少ないですよね。

岩井:そうなんです。それに振り返ったとしても、あらためて気に留めたり、向き合うことはあまりない気がします。私たちの調査でも、月経痛が重かったり、眠りが浅かったりと不調を抱えていながら、「自分は健康」と答える方が少なくありませんでした。

田口さん: 不調を感じても「日常生活に支障がなければ健康」と捉える方が多いのかもしれませんね。けれど、倦怠感やだるさだって体からの大切なサイン。「痛みがないから大丈夫」と片づけず、小さな違和感に気づき、認めてあげることが大切だと思います。

大槻: では、具体的にどうすれば自分の体の状態を知ることができるのでしょうか?

田口さん: 女性の場合、わかりやすい指標になるのが「月経」です。今は便利なアプリもたくさんあるので、周期や経血の状態・量、そのときの体調や気持ちの変化を記録してみるといいですね。日記をつける感覚でまずは3か月ほど続けてみると、自分なりの健康リズムが見えてくるかもしれません。

岩井:不調のサイクルがわかると気持ちも楽になりますよね。「毎回この時期に心が揺らいで、パートナーとケンカしてしまうんだな」とか……。

大槻: 私も月経カップを使って初めて、自分が経血量が多いタイプなんだと気づきました。ナプキンだとわかりにくい経血の状態も、把握しやすいです。

田口さん: ツールを取り入れるのもいいですよね。どんな方法であれ、自分の体の状態を「可視化」することが、自分を客観的に知る第一歩になります。「普段の状態」を知っているからこそ、小さな変化にも気づけて、大きな不調につながる前に対応できるんです。

妊娠・出産期間こそ、自分の体と向き合う絶好の機会

田口さん: 女性の人生で、自分の体と本気で向き合わざるを得ないタイミングのひとつが、「妊娠・出産期間」ではないでしょうか。

岩井:たしかに。毎月体重を測ったり、血液や尿をチェックしたり……あんなに自分の体を隅々まで確認する期間は、他にありませんよね。

大槻: 私も、30代半ばで初めて自分を深く知る経験をしました。それまで大きな病気もなく、自分は「健康体だ」と過信していたんです。けれど、結婚を機に婦人科を受診したところ、AMH(卵巣の予備能を推定するホルモン値)が実年齢の平均より低いことが分かりました。

正直ショックで、その後は2日間不妊治療に関する情報を集め続けました。当時を振り返ると「無知だったな」と思いますが、それが自分を知る“千本ノック”となり、本当の意味で体と向き合うきっかけになったと感じます。

岩井: そして産後もまた、別のかたちで自分と向き合うフェーズがやってきますよね。今度は、周りのお母さんや赤ちゃんと比べることが増えて……。

田口さん: そうですね。「あのママは2時間おきの授乳でも元気なのに、どうして私はこんなに疲れているんだろう」「同じ量のミルクを飲んでいるのに、あの子はふっくらしていて、うちの子は細いのはなぜだろう」と、つい比べてしまうんですよね。

岩井: 私の場合は、「なんで私だけ、こんなにおっぱいトラブルが続くんだろう」と常に思っていました。乳腺炎を繰り返したり、痛みで授乳がつらかったり。周りは順調そうなのに、自分だけ落ち込んでしまって。

田口さん:けれど、「なぜ」と感じること自体は、決して悪いことではありません。それは、自分を知るための気づきのスタート。「なんで妊娠できないの?」「なんで流産を繰り返すの?」「なんで私ばっかりしんどいの?」。こうした疑問が、自分の体と深く向き合うための大切なきっかけになることもあるのです。

「なぜ?」の沼にハマらないために。信頼できる“伴走者”を見つける

大槻: では、「なぜ?」という疑問が湧いたとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?

田口さん: そこが一番難しいところですよね。今は便利なSNS検索がありますが「情報の大海に溺れて、かえって気持ちが落ち込む」という悪循環に陥ることも少なくありません。大切なのは、「なんで?」と感じたときに「あの人に聞けば大丈夫」と相談できる専門家、一緒に走ってくれる伴走者を自分の周りに見つけておくことです。

岩井: 私たちにとっては田口さんがまさにその存在ですが、どこに相談していいか分からない方も多いですよね。

田口さん:本来であれば、私たち助産師がもっと気軽に相談できる窓口になれればと思っています。ただ、助産師といっても役割はさまざま。私のように女性の心身のケア全般に寄り添う助産師もいれば、病院で分娩に特化して働く助産師もいます。また、医療法の制約もあって、助産師のサポートを幅広く提供すること自体も簡単ではないんですよね。

大槻: 専門家を探す側にも、専門家として情報を届ける側にも、まだ隔たりがあるのかもしれませんね。

田口さん: そうですね。だからこそ、私たちも法人化するなどして、活動を広く届ける方法を模索しています。今は、SNSなどを使えば、遠方にお住まいの方とオンラインでつながることもできます。まずは一人、信頼できる専門家を見つける。困ったときには、私たちのような場に相談していただくのもひとつの手だと思います。

自身の体への「探求」は人生を豊かにする

大槻: あらためて「自分を知る」ためのステップを整理すると、「自分の体を記録して振り返る」「分からないことは信頼できる専門家に聞く」という繰り返しが大切だということですね。

田口さん: はい。まずは「自分の体はどうなっているんだろう?」と知ろうとすることが、すべての出発点です。そのうえで、自分の体を振り返り、分からないことがあれば専門家に聞く。おもしろいことに、理解が深まるほど、もっと知りたいという探究心が湧いてきます。この繰り返しによって、自然と自己理解が深まっていくのです。

大槻: そうやって自分の体の変化に気づけるようになっておけば、いずれ訪れる更年期など、ライフステージの変化にもしなやかに対応できそうですね。

田口さん: その通りです。「更年期が怖いから」と身構えるのではなく、未来の自分につながる「自然な流れ」をつくるために、自分の体を知っておくことが大切なんです。そうすれば視野が広がって「自分の子どもにはどう伝えるか」「パートナーにはどう理解してもらうか」といった、前向きな発想にもつながるかもしれません。

大槻: 2回にわたり、貴重なお話をありがとうございました。最後に、田口さんからメッセージをお願いします。

田口さん: 自分の体を知るのは、実はとてもおもしろいんです。自分の体を理解することで、周りの人のことも理解できるようになり、人間関係の質も高まります。自分の人生を豊かにするための「探求」だと思って、若い方こそ自分の体について積極的に知ってほしいですね。

大槻: 健康オタク、おもしろいですもんね(笑)。読者のみなさんも、今日の話の中から一つでも、ご自身の体を振り返る小さなアクションにつなげていただけたらうれしいです。

鼎談の前編はこちらから
https://www.pb-femtech.jp/journal/detail/journal-008

【鼎談参加者】

  • 田口 史子(ゲスト): 助産師。株式会社Mama&Baby conditioning代表
    産婦人科医院での助産師経験を経て、2016年に乳房ケア専門の助産院を開業。10年以上に渡り産前産後の乳房ケアに関わる。現在は助産院での活動の傍ら、株式会社Mama&Baby conditioningの代表として女性の健康を支える幅広いプロジェクトに携わる。
  • 大槻、岩井(聞き手): わたしとねむり研究所

まずは不調を受け止める。月経が教えてくれる体のサイン

株式会社Mama&Baby conditioning代表/助産師 田口 史子さん

大槻: 前編では「自分の体を知ることの大切さ」が話題になりましたが、実際に自分の体調を振り返る機会って、意外と少ないですよね。

岩井:そうなんです。それに振り返ったとしても、あらためて気に留めたり、向き合うことはあまりない気がします。私たちの調査でも、月経痛が重かったり、眠りが浅かったりと不調を抱えていながら、「自分は健康」と答える方が少なくありませんでした。

田口さん: 不調を感じても「日常生活に支障がなければ健康」と捉える方が多いのかもしれませんね。けれど、倦怠感やだるさだって体からの大切なサイン。「痛みがないから大丈夫」と片づけず、小さな違和感に気づき、認めてあげることが大切だと思います。

大槻: では、具体的にどうすれば自分の体の状態を知ることができるのでしょうか?

田口さん: 女性の場合、わかりやすい指標になるのが「月経」です。今は便利なアプリもたくさんあるので、周期や経血の状態・量、そのときの体調や気持ちの変化を記録してみるといいですね。日記をつける感覚でまずは3か月ほど続けてみると、自分なりの健康リズムが見えてくるかもしれません。

岩井:不調のサイクルがわかると気持ちも楽になりますよね。「毎回この時期に心が揺らいで、パートナーとケンカしてしまうんだな」とか……。

大槻: 私も月経カップを使って初めて、自分が経血量が多いタイプなんだと気づきました。ナプキンだとわかりにくい経血の状態も、把握しやすいです。

田口さん: ツールを取り入れるのもいいですよね。どんな方法であれ、自分の体の状態を「可視化」することが、自分を客観的に知る第一歩になります。「普段の状態」を知っているからこそ、小さな変化にも気づけて、大きな不調につながる前に対応できるんです。

妊娠・出産期間こそ、自分の体と向き合う絶好の機会

田口さん: 女性の人生で、自分の体と本気で向き合わざるを得ないタイミングのひとつが、「妊娠・出産期間」ではないでしょうか。

岩井:たしかに。毎月体重を測ったり、血液や尿をチェックしたり……あんなに自分の体を隅々まで確認する期間は、他にありませんよね。

大槻: 私も、30代半ばで初めて自分を深く知る経験をしました。それまで大きな病気もなく、自分は「健康体だ」と過信していたんです。けれど、結婚を機に婦人科を受診したところ、AMH(卵巣の予備能を推定するホルモン値)が実年齢の平均より低いことが分かりました。

正直ショックで、その後は2日間不妊治療に関する情報を集め続けました。当時を振り返ると「無知だったな」と思いますが、それが自分を知る“千本ノック”となり、本当の意味で体と向き合うきっかけになったと感じます。

岩井: そして産後もまた、別のかたちで自分と向き合うフェーズがやってきますよね。今度は、周りのお母さんや赤ちゃんと比べることが増えて……。

田口さん: そうですね。「あのママは2時間おきの授乳でも元気なのに、どうして私はこんなに疲れているんだろう」「同じ量のミルクを飲んでいるのに、あの子はふっくらしていて、うちの子は細いのはなぜだろう」と、つい比べてしまうんですよね。

岩井: 私の場合は、「なんで私だけ、こんなにおっぱいトラブルが続くんだろう」と常に思っていました。乳腺炎を繰り返したり、痛みで授乳がつらかったり。周りは順調そうなのに、自分だけ落ち込んでしまって。

田口さん:けれど、「なぜ」と感じること自体は、決して悪いことではありません。それは、自分を知るための気づきのスタート。「なんで妊娠できないの?」「なんで流産を繰り返すの?」「なんで私ばっかりしんどいの?」。こうした疑問が、自分の体と深く向き合うための大切なきっかけになることもあるのです。

「なぜ?」の沼にハマらないために。信頼できる“伴走者”を見つける

大槻: では、「なぜ?」という疑問が湧いたとき、私たちはどうすればいいのでしょうか?

田口さん: そこが一番難しいところですよね。今は便利なSNS検索がありますが「情報の大海に溺れて、かえって気持ちが落ち込む」という悪循環に陥ることも少なくありません。大切なのは、「なんで?」と感じたときに「あの人に聞けば大丈夫」と相談できる専門家、一緒に走ってくれる伴走者を自分の周りに見つけておくことです。

岩井: 私たちにとっては田口さんがまさにその存在ですが、どこに相談していいか分からない方も多いですよね。

田口さん:本来であれば、私たち助産師がもっと気軽に相談できる窓口になれればと思っています。ただ、助産師といっても役割はさまざま。私のように女性の心身のケア全般に寄り添う助産師もいれば、病院で分娩に特化して働く助産師もいます。また、医療法の制約もあって、助産師のサポートを幅広く提供すること自体も簡単ではないんですよね。

大槻: 専門家を探す側にも、専門家として情報を届ける側にも、まだ隔たりがあるのかもしれませんね。

田口さん: そうですね。だからこそ、私たちも法人化するなどして、活動を広く届ける方法を模索しています。今は、SNSなどを使えば、遠方にお住まいの方とオンラインでつながることもできます。まずは一人、信頼できる専門家を見つける。困ったときには、私たちのような場に相談していただくのもひとつの手だと思います。

自身の体への「探求」は人生を豊かにする

大槻: あらためて「自分を知る」ためのステップを整理すると、「自分の体を記録して振り返る」「分からないことは信頼できる専門家に聞く」という繰り返しが大切だということですね。

田口さん: はい。まずは「自分の体はどうなっているんだろう?」と知ろうとすることが、すべての出発点です。そのうえで、自分の体を振り返り、分からないことがあれば専門家に聞く。おもしろいことに、理解が深まるほど、もっと知りたいという探究心が湧いてきます。この繰り返しによって、自然と自己理解が深まっていくのです。

大槻: そうやって自分の体の変化に気づけるようになっておけば、いずれ訪れる更年期など、ライフステージの変化にもしなやかに対応できそうですね。

田口さん: その通りです。「更年期が怖いから」と身構えるのではなく、未来の自分につながる「自然な流れ」をつくるために、自分の体を知っておくことが大切なんです。そうすれば視野が広がって「自分の子どもにはどう伝えるか」「パートナーにはどう理解してもらうか」といった、前向きな発想にもつながるかもしれません。

大槻: 2回にわたり、貴重なお話をありがとうございました。最後に、田口さんからメッセージをお願いします。

田口さん: 自分の体を知るのは、実はとてもおもしろいんです。自分の体を理解することで、周りの人のことも理解できるようになり、人間関係の質も高まります。自分の人生を豊かにするための「探求」だと思って、若い方こそ自分の体について積極的に知ってほしいですね。

大槻: 健康オタク、おもしろいですもんね(笑)。読者のみなさんも、今日の話の中から一つでも、ご自身の体を振り返る小さなアクションにつなげていただけたらうれしいです。

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